無月経の原因には様々な疾患があり、
- 視床下部性
- 下垂体性
- 卵巣性
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 子宮性
と大きく分けることができます。中でも、妊娠可能女性において最も頻度の高い内分泌疾患であり、不妊、内膜増殖症、糖尿病、循環器疾患のリスクとなる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とはどんな病気なのか
- 多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
- 多嚢胞性卵巣症候群の治療法
- 治療による副作用について
- 手術について
これらについてまとめてみました。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は臨床症状、血中ホルモン検査、超音波検査に基づいて診断される病態です。原因は不明とされています。
閉経前の女性が罹患し、
- 慢性的な無排卵:無月経、不妊
- アンドロゲン過剰症:多毛、肥満
によって特徴づけられる、割と頻度の高い疾患です。
インスリン抵抗性の頻度が、他の女性よりも高い傾向にあり、肥満の影響とは関係なく2型糖尿病のリスクが高いと言われています。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準は?
診断基準としては、
- 血中男性ホルモン値またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常
- 月経異常
- 多嚢胞卵巣
これらの3項目を全て満たす必要があります。
その他、必須ではありませんが、参考項目として以下の項目をチェックします。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)参考項目
臨床症状
- 男性化(多毛、にきび、低声音、陰核肥大)
- 肥満
- 不妊
内分泌検査所見
- GnRH負荷試験に対し、LHは過剰反応、FSHはほぽ正常反応
- エストロン/エストラジオール比の高値
- 血中テストステロンまたは血中アンドロステンジオンの高値
卵巣所見
- 内診または超音波断層検査で卵巣の腫大が認められる。
- 開腹または腹腔鏡で卵巣の白膜肥厚や表面隆起が認められる。
(生殖・内分泌委員会報告,日産婦人誌,1993.を参考)
無排卵により、排卵できなかった卵が卵巣内で多数の嚢胞を形成することによりLHの分泌が過剰となり、男性ホルモンである血中アンドロゲンが過剰となります。その結果、男性化症状が顕在化してきます。
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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の分類は?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は卵巣の多嚢胞性変化の他に次の3つの亜型から構成されています。
- type1:血中LH高値を示す高LH症候群
- type2:type1に血中アンドロゲン過剰が加わる高アンドロゲン血症症候群
- type3:type2にさらに男性化症状が顕在化する Stein-Leventhal症候群。
多嚢胞卵巣の診断は?
多嚢胞卵巣の診断には超音波検査もしくはMRIが用いられます。
- 2-9mm大の卵胞が12個以上見られる。
あるいは
- 卵巣の体積が10c㎥と腫大している。
場合に、画像上、多嚢胞卵巣と呼ぶことができます。
PCOSでは、この卵巣の中の卵胞は正常女性よりも数が多く(平均19個程度)、卵巣の辺縁(パールネックレスサイン:pearl necklace sign)に見られることが多く、また中心部の卵巣間質が確認できることが多いとされています。ただし、この辺縁に見られるのも半数程度。(Eur Radiol 20:1207-1213,2010.)
注意するべき点として、あくまで診断基準に則って診断される疾患であり、超音波検査やMRIと言った画像検査のみでこの病気を診断することはできないということです。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療法は?
PCOSの治療は子供を希望する場合とそうでない場合で分かれます。
まずは子供を希望しない場合からお話しします。
子供を希望しない場合
子供を希望しない場合はホルモン療法が主な治療法となります。
まずは肥満があった場合は運動や食事療法にて減量を行い、その上でホルモン療法であるホルムストローム療法(Holmstrom療法)を行います。
ホルムストローム療法(Holmstrom療法)とは
この治療法はエストロゲンの分泌がある第一度無月経の症状で行われる治療法です。
カウフマン療法と混同されがちですが、カウフマン療法とは違い、エストロゲンの投与は行いません。
エストロゲンの投与は行わず、プロゲステロンの投与だけを行います。
この療法はエストロゲンだけが過剰に分泌されているという状態を防ぐとともに子宮体癌や乳がんのリスクを減らすという観点からも重要です。
子供を希望する場合
子供を希望する場合もまずは肥満があった場合にはまず減量を行います。
そのうえでクロミフェン療法を行います。
クロミフェン療法とは
クロミフェンと呼ばれる抗エストロゲン作用がある薬を経口投与する治療法です。
無排卵周期症、希発月経、第一度無月経の時に使われる療法です。
投与は消退出血の5日目から5日間連続行います。
消退出血とは
子宮内膜はエストロゲンによって増殖し、プロゲステロンが作用することで分泌します。
このエストロゲンとプロゲステロンが急激に低下することを消退と呼び、これによって起こる出血が消退出血です。
消退出血は生理の時に自然に起こる出血ではなく、ピルなどの薬によって起こるものです。
肥満や耐糖能異常、インスリン抵抗性がある場合はメトホルミンを併用することで排卵が改善される場合があります。
クロミフェン療法の次はゴナドトロピン療法
クロミフェン療法で排卵や妊娠が起こらなかった場合はゴナドトロピン療法が行われます。
卵胞刺激ホルモン作用がある薬を投与し、卵胞の発育を促します。
卵胞が一定の大きさになったら黄体形成ホルモン作用がある薬を投与して排卵を促します。
最後はART
ARTとは体外受精のことです。生殖補助医療と呼ばれ、精子、卵子、受精卵に体外操作を加えて妊娠を目指します。
ARTの大まかな流れ
- 排卵を誘発、男性は3~5間の禁欲生活
- 採卵する。男性は精子を採取する
- 受精障害がないなら培養液の中で自然に受精
- 受精障害があるなら顕微鏡下で精子を卵細胞質内に注入
- 胚培養
- 胚を女性の子宮に移植する
- ホルモン療法によって妊娠を維持する
治療による副作用ってあるの?
クロミフェン療法の副作用
クロミフェン療法に使われるクロミフェンは抗エストロゲン作用があるため、頸管粘液分泌の低下、子宮内膜の発育不良を引き起こすことがあります。
ゴナドトロピン療法の副作用
ゴナドトロピン療法では排卵が多発するリスクがあり、卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠の可能性があります。
多嚢胞性卵巣症候群の手術とは?
手術の条件
腹腔鏡下卵巣多孔術はこのような時に行われます。
- ゴナドトロピン療法で効果が無かった場合
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)であった場合、または発症リスクがある場合
手術の方法
電気メス、またはレーザーで卵巣皮質に穴をあけて自然排卵を促します。
排卵率、妊娠率ともにゴナドトロピン療法と同等です。
メリット
この手術を施した後にゴナドトロピン療法を行うと多胎妊娠やOHSSのリスクが軽減します。
デメリット
デメリットは効果が永久的でない場合があること、稀に早発卵巣不全になることがあります。
まとめ
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは閉経前の女性が罹患する疾患
- 症状は月経異常や不妊、男性化や肥満
- 診断には超音波とMRIが用いられる
- 治療は子供を希望するか否かで変わる
- 治療には副作用もある
- 手術による治療も可能
無月経の原因の一つである多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)についてまとめました。
無月経の原因には様々あり、診断は容易ではありませんが、月経異常や不妊の場合にはこの疾患も考える必要があります。