胃切除後に生じる合併症は、逆流性食道炎・ダンピング症候群・blind loop症候群・輸入脚症候群・吻合部潰瘍・貧血・・・などがあります。
今回は、中でも手術をして切除したにもかかわらず、吻合部に再び潰瘍ができる器質性障害である吻合部潰瘍(読み方は「はふんごうぶかいよう」英語表記で「Anastomotic ulcer」)について
- 症状
- 原因
- 治療法
を説明したいと思います。
吻合部潰瘍とは?
吻合部潰瘍とは、胃の切除後に吻合部よりも下部の腸管に生じる潰瘍のことです。
吻合部より下部にある腸管に生じやすいのは、小腸は胃と異なり、胃酸に対して弱いためです。
吻合部潰瘍の症状は?
- 腹痛
- 食欲不振
- 吐血
- 下血
などといった症状があらわれます。
吻合部潰瘍の原因は?
胃の手術をした際の減酸が不十分だったことが吻合部潰瘍の原因です。
減酸とは文字の通り胃酸を減らすということです。
この減酸は、手術の際に
- 迷走神経の胃への枝を切断する
- 胃酸を分泌する壁細胞が多く存在する胃の幽門側を部分的に切除する
ことで行われます。
ただし、この減酸目的のこれらの処置は、現在ではほとんど行われていません。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)という胃薬が出てから手術で減酸する必要がなくなったためです。
減酸には本人の体質も関与
この減酸が不十分ということは、切除した範囲が不十分であったことが多くありますが、それとは別に患者本人の体質
- 胃液分泌障害
- 血流問題
- 糖尿病(動脈硬化)
などが関係することも中にはあります。
吻合部潰瘍の治療法は?
臨床症状のほか、内視鏡検査によって吻合部潰瘍は診断できます。
治療法として、すぐに再建手術を思い浮かべるかもしれませんが、必ずしも必要なわけではありません。
薬物療法として
- 制酸薬
- 粘膜保護薬
- 蛋白分解酵素阻害薬
などの投与によってコントロールできれば、再手術の必要はありません。
ですが、上記の薬で改善しない、症状が重い場合には、再び手術をおこない問題のある部分を切除します。
ただ、胃切除範囲が問題なので、この問題を解決(しっかり疾患のある部位を取り除く)すれば再びこの合併症が起こることはほとんどありません。
- 参考文献:内科診断学 第2版 P854・855
- 参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P95
- 参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P127・128
最後に
- 手術後の吻合部に生じる潰瘍を吻合部潰瘍という
- 切除した範囲が不十分(または患者自身の体質)で減酸が十分でないことが原因で生じる
- 薬物療法によってコントロールできれば、再手術は必要ない
- 胃切除範囲が問題であって、ここをクリアにすれば起こらない合併症
吻合部潰瘍は、下血や吐血をともなえば、貧血となることも多くあります。
しっかり治療し、退院後も食生活に注意し、刺激物や脂質・糖質を控えめにしましょう。