
胃の手術を受けたあとに、みぞおちや上腹部が痛む、黒い便が出る、といった症状があると、「手術のつなぎ目に潰瘍ができたのではないか」と心配になる。
結論からいうと、吻合部潰瘍は、胃の手術でつないだ部分(吻合部)やその近くにできる潰瘍で、手術後に起こりうる合併症のひとつである。主な症状は腹痛で、まれに出血、穿孔(穴があく)、狭窄(せまくなる)を起こす。診断は内視鏡検査で行い、治療の中心はプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸を抑える薬と、喫煙などの原因の見直しである。
この記事では、吻合部潰瘍とは何か、原因、症状、検査と治療、受診の目安、日常生活での注意点を整理する。
- 吻合部潰瘍は、胃の手術でつないだ部分とその周りにできる潰瘍で、腹痛が主な症状である。
- 危険因子として、喫煙、ピロリ菌感染、糖尿病、ステロイドや鎮痛薬(NSAIDs)の使用などが報告されている。
- 診断は内視鏡検査で行い、治療はPPIなどの薬と、危険因子の見直しが中心である。
- 出血・穿孔・狭窄を起こしたときは、内視鏡治療や手術が必要になることがある。
吻合部潰瘍とは
胃の手術では、胃を切除したあとに、残った胃と腸をつなぎ直す(再建する)。このつなぎ目を吻合部という。吻合部潰瘍(英語では marginal ulcer、「縁にできる潰瘍」という意味)は、吻合部、またはそのすぐ近くにできる潰瘍をさす。
吻合部潰瘍に関する研究の多くは、肥満に対する胃バイパス術(Roux-en-Y胃バイパス術)のあとの報告である。そのため、胃がんなどで胃の一部または全部を切除した場合に、同じ頻度や原因が当てはまるとは限らない。この記事では、胃バイパス術の報告で得られた知見と、日本消化器病学会の「消化性潰瘍診療ガイドライン2020」の残胃潰瘍に関する記載を、分けて示す。
胃バイパス術後の吻合部潰瘍の頻度は、平均で4.6%と報告されている(Salame 2023)。研究によって頻度の幅が大きく、最大25%に及ぶとする報告もある(Beran 2023)。


吻合部潰瘍の原因・危険因子
吻合部潰瘍の成り立ちは複雑で、喫煙、ピロリ菌感染、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬、痛み止め)の使用、胃の袋(パウチ)が大きいことなどが関わるとされる(Salame 2023)。
胃バイパス術後の吻合部潰瘍の危険因子を調べたメタ解析(複数の研究をまとめた解析)では、次の結果が出ている。
- ピロリ菌感染:オッズ比4.97(95%信頼区間2.24〜10.99)
- 喫煙:オッズ比2.50(1.76〜3.54)。別のメタ解析では3.491(2.204〜5.531)
- 糖尿病:オッズ比1.80(1.15〜2.80)。別のメタ解析では1.812(1.226〜2.676)
- ステロイドの使用:オッズ比2.804(1.383〜5.685)
NSAIDsについては、潰瘍が増える傾向はあるものの、統計的にははっきりしなかった(オッズ比2.43、0.72〜8.21)。年齢、BMI、性別、高血圧、飲酒は予測因子ではなかった(Beran 2023、Liang 2024)。
なお、オッズ比は、その要因がある人にない人と比べて潰瘍が起こりやすいかを示す数字で、1より大きいほど起こりやすい。これらの数字は胃バイパス術後の集団の結果であり、個々の人の潰瘍の起こりやすさをそのまま表すものではない。
胃切除後(残胃潰瘍)でのピロリ菌
日本消化器病学会の「消化性潰瘍診療ガイドライン2020」には、胃切除後の「残胃潰瘍」の章がある。残胃潰瘍と、ピロリ菌感染の有無との関連を調べたいくつかの横断研究では、いずれも関連は認められず、除菌による潰瘍の治療効果・再発予防効果は一定しないとされている。一方で、残胃に生じるがんの予防には、ピロリ菌の除菌に効果があるとされ、実臨床では残胃のピロリ菌除菌は推奨されるが、除菌によって胃酸分泌が改善した際に、残胃潰瘍へ与える影響に注意が必要とされる(日本消化器病学会 2020)。
海外のレビューでも、胃腫瘍の既往があり胃の手術を受けた患者にはピロリ菌の除菌が強く推奨されているが、除菌が吻合部潰瘍のリスクを下げるかどうかは、ガイドラインに示されていないとされる(Lin 2014)。
症状と合併症
吻合部潰瘍がある人は、急性または慢性の腹痛を訴えることがある。まれに、潰瘍による出血、穿孔、狭窄などの合併症を伴う(Salame 2023)。
- 腹痛:急に起こる痛みも、続く痛みもある
- 出血:黒色便(黒い便)や吐血などで気づくことがある。出血性の潰瘍では、黒色便は重症度の評価項目のひとつになっている(日本消化器病学会 2020)
- 穿孔:潰瘍が壁を貫いて穴があく状態。穴の修復の手術が必要になることがあり、緊急の対応が必要な場合がある(Salame 2023、Fry 2023)
- 狭窄:吻合部がせまくなり、食べ物が通りにくくなる。狭窄した部分の切除が必要になることがある(Salame 2023)
検査と治療
診断
診断は内視鏡検査(胃カメラ)で行う(Salame 2023)。胃カメラについては上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)とは?目的や所見の判定についてをご覧いただきたい。
治療
治療の基本は、危険因子の見直しと、PPIを中心とした薬物療法である(Salame 2023)。日本消化器病学会のガイドラインでも、残胃潰瘍に対してPPIの投与が強く推奨されている(推奨の強さ:強、エビデンスレベルC)。残胃潰瘍を対象にした比較試験では、2週間後の潰瘍治癒率は、オメプラゾール66.7%、シメチジン43.3%、スクラルファート22.2%、コロイダルビスマス22.2%、ミソプロストール16.7%で、オメプラゾールが最も早く治癒した。6週間後には、いずれも約66〜87%に達し、薬の間に有意な差はなかった(日本消化器病学会 2020)。薬の種類や量、期間は、医師が潰瘍の状態をみて決める。
合併症があるときの治療として、穿孔の修復や狭窄部分の切除といった手術が必要になることがある。再発を繰り返す難治性の潰瘍では、潰瘍面を内視鏡で覆う、吻合部を切除する、迷走神経を切る手術などが検討される(Salame 2023)。
症状・結果がずれる場合(痛み以外の病気との区別)
手術後の腹痛が、すべて吻合部潰瘍とは限らない。胃バイパス術後の腹痛の原因には、吻合部潰瘍のほか、内ヘルニア(腸のすきまへの入りこみ)、胆石などの胆道の病気、腸のつなぎ目の問題などがあり、病歴の確認と、画像検査・血液検査・内視鏡検査を組み合わせて調べる(Fry 2023)。また、胃の手術後に、鉄やビタミンB12の不足による貧血が起こることもある。くわしくは胃切除後の貧血の原因は?鉄欠乏とビタミンB12不足、症状・検査・治療で解説している。
再検査・受診の目安(何科に行くか)
- 黒い便、吐血、ふらつき・冷や汗などがある:出血の可能性があり、救急受診が必要
- 突然の強い腹痛、お腹が板のように硬くなる:穿孔の可能性があり、救急受診が必要
- 食べ物が通りにくい、嘔吐を繰り返す:狭窄の可能性があり、手術を受けた病院か消化器内科へ
- みぞおち・上腹部の痛みが続く:手術を受けた病院の外科、または消化器内科で内視鏡検査を受ける

自分でできること
- 禁煙する:喫煙は、吻合部潰瘍の危険因子としてメタ解析で示されている(Beran 2023、Liang 2024)。
- 痛み止め(NSAIDs)の使用を医師に伝える:自己判断で飲み続けず、手術を受けたことを伝えて相談する。
- 糖尿病がある人は血糖コントロールを続ける:糖尿病は危険因子のひとつである(Beran 2023)。
- 処方された薬を指示どおりに飲む:PPIなどを自己判断で中止しない。
胃や十二指腸の潰瘍のくわしい説明は、胃潰瘍とは?原因(ピロリ菌・NSAIDs)、検査、薬と治療、出血時の対応や十二指腸潰瘍とは?症状・原因・検査・治療を解説を参考にしてほしい。
よくある疑問
Q1. 吻合部潰瘍は、手術後どのくらいの時期に起こるのか。
時期は一定ではない。胃バイパス術の一種であるOAGB(ミニ胃バイパス)の報告では、時期が記録された例のうち、手術後12か月以内に見つかった例が53例、31か月以降が24例、6年以降の例も5例あった(Lee 2023)。手術から時間がたっていても、腹痛が続くときは受診する。
Q2. 吻合部潰瘍は再発するか。
再発を繰り返す難治性の潰瘍も報告されており、その場合は、危険因子の見直しに加えて、内視鏡治療や手術が検討される(Salame 2023)。日本のガイドラインでも、残胃潰瘍に対しては、まず薬物療法が行われる(日本消化器病学会 2020)。
Q3. 痛み止め(NSAIDs)は使ってはいけないのか。
NSAIDsは吻合部潰瘍の誘因のひとつと考えられている(Salame 2023)。一方、メタ解析では、潰瘍が増える傾向はあるものの統計的にははっきりしなかった(Beran 2023)。必要な痛み止めを自己判断でやめたり、逆に飲み続けたりせず、胃の手術を受けたことを伝えて主治医に相談する。
気になる症状や結果があれば、早めに医療機関に相談してほしい。
まとめ
- 吻合部潰瘍は、胃の手術のつなぎ目やその近くにできる潰瘍で、腹痛が主な症状
- 胃バイパス術後の研究では、ピロリ菌感染、喫煙、糖尿病、ステロイドが危険因子
- 診断は内視鏡検査、治療はPPIと危険因子の見直しが中心
- 出血・穿孔・狭窄は、救急受診や手術が必要になることがある
参考文献
- 日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)」第7章 残胃潰瘍 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/syoukasei2020.pdf
- Salame M, et al. Marginal Ulcers after Roux-en-Y Gastric Bypass: Etiology, Diagnosis, and Management. J Clin Med. 2023;12. PubMed 37445371
- Beran A, et al. Predictors of marginal ulcer after gastric bypass: a systematic review and meta-analysis. J Gastrointest Surg. 2023;27:1066-1077. PubMed 36795250
- Liang Y, et al. Nonsurgical risk factors for marginal ulcer following Roux-en-Y gastric bypass for obesity: a systematic review and meta-analysis of 14 cohort studies. Int J Surg. 2024;110:1793-1799. PubMed 38320087
- Lin YS, et al. Management of Helicobacter pylori infection after gastric surgery. World J Gastroenterol. 2014;20:5274-82. PubMed 24833857
- Lee S, et al. Marginal Ulcers Following One-Anastomosis Gastric Bypass: a Systematic Review and Meta-analysis. Obes Surg. 2023;33:2884-2897. PubMed 37526816
- Fry BT, Finks JF. Abdominal Pain After Roux-en-Y Gastric Bypass: A Review. JAMA Surg. 2023;158:1096-1102. PubMed 37531117





