脳腫瘍にも様々な種類がありますが、原発性脳腫瘍の約11%を占めるのが神経鞘腫(読み方は「しんけいしょうしゅ」英語表記でSchwannoma(シュワノーマ))というものがあります。
今回は、この神経鞘腫について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
をご説明したいと思います。
神経鞘腫とは?
末梢神経Schwann細胞由来の被膜を有する良性腫瘍です。
聴神経(内耳神経)から発生する聴神経鞘腫が最も多く、実に約95%を占めます。
聴神経(内耳神経)の他には、三叉神経や顔面神経などから発症することもあります。
好発年齢
40~60歳代の人に好発し、やや女性に多い傾向があります。
神経鞘腫の原因は?
腫瘍発生原因は不明です。
しかし、通常片側のみに発生する神経鞘腫が両側に発生する場合は、神経線維腫症2型(NF2)の症状として現れます。そして、その神経線維腫症2型は常染色体優体遺伝疾患です。
神経鞘腫の症状は?
- 耳鳴り
- 難聴
- 角膜反射消失
- めまい
- 顔面麻痺
- 運動失調
- 頭蓋内圧亢進症状
- 水頭症
初発症状として耳鳴りや難聴などの蝸牛神経症状(かぎゅうしんけいしょうじょう)が典型的です。
そして、腫瘍拡大と共に、周囲を圧迫するために角膜反射消失やめまい、顔面麻痺などを呈するようになります。
進行すると更に、運動失調などの小脳症状や頭蓋内圧亢進症状、水頭症が見られるようになります。
症状 | 障害神経 |
角膜反射消失 | 三叉神経 |
Bruns眼振(ブルンズ)・目眩 | 前庭神経 |
高音域難聴・耳鳴り | 蝸牛神経 |
顔面神経麻痺 | 顔面神経 |
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神経鞘腫の診断は?
CTやMRI、聴力検査やカロリックテスト、聴性脳幹反応(ABR)などを行い診断します。
CT
腫瘍は低~等吸収域で、造影CTでは、比較的均一な高吸収域を示します。また、高い確率で内耳道の拡大を認めます。
MRI
T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を呈します。ガドリニウム造影で著明に増強されます。
症例:56歳女性
右耳聴力低下と歩行障害を訴え来院。
(出典:医師国家試験110D36)
頭部の造影MRIにおいて右の小脳橋角部に嚢胞性変化を伴った腫瘤性病変あり。腫瘤は壁を中心に著明な造影効果を認めています。右聴神経腫瘍を疑う所見です。
聴力検査
純音聴力検査(PTA)で聴力低下を確認でき、語音明瞭度検査(SDS)で明瞭度低下が見られます。
カロリックテスト
温度眼振テストとも言いますが、温度刺激検査で、外耳道に冷水と温水を注入し、三半規管を刺激。人工的に目眩を起こさせる方法で、この時の眼振を確認して左右の前庭機能を比較する検査です。
温水の場合は注入した方向に、冷水の場合は逆側に向かって眼振が確認できますが、神経鞘腫の場合、この検査で眼振の低下や消失が早期の段階から確認できます。
聴性脳幹反応
略してABRとも言います。頭に電極とヘッドホンを付け、ベッド上安静状態で、聴覚神経系を刺激して得られる脳幹部での電位を頭皮上で記録し、波形の状態によって異常部位を判断する検査で、患側のⅠ~Ⅴ波の潜時延長を確認できます。
神経鞘腫の治療法は?
外科的手術で腫瘍全摘出を目指します。手術により顔面神経麻痺を合併しやすいため、神経モニターを使用して手術を行うなど、聴神経と隣接する顔面神経の温存が重要になります。
3cm以下の腫瘍や残存腫瘍に対しては放射線療法として、定位照射を考慮します。また、2cm以下の腫瘍で、無症候性の者の場合、保存療法を行うこともあります。
最後に
- 聴神経(内耳神経)から発生することが約95%と最も多い
- 末梢神経Schwann細胞由来の皮膜を有する良性腫瘍
- 腫瘍発生原因は不明
- 耳鳴りや難聴などの蝸牛神経症状が初期症状として現れる
- 腫瘍拡大と共に様々な症状が現れる
- CTやMRI、聴力検査やカロリックテスト、聴性脳幹反応(ABR)などを行い診断
- 腫瘍全摘出が目標
脳ドック等で見つかることもあり、良性腫瘍が悪性腫瘍に変わるものでもないため、症状がなければ必ずしも手術を行わなければいけないということはありませんが、腫瘍拡大と共に症状が出てくる前に治療を行うのも1つの方法です。