肝臓は解毒の働きもあるため、アルコールによって肝機能障害が起こることはありますが、中には過剰飲酒歴を問わなくても脂肪性肝疾患となる場合もあります。
そのため、アルコールが原因でない脂肪性肝疾患という意味で、英語表記で「Non-alcoholic fatty liver disease」頭文字をとって「NAFLD」と呼ばれます。
明らかな飲酒歴がないのにアルコール性肝障害と類似する組織を示します。
今回は、そんな非アルコール性脂肪性肝疾患について
- 原因
- 診断基準
- 治療
など、分かりやすくご説明したいと思います。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは?
肝細胞の中に、30%以上の中性脂肪を主とした脂質が蓄積した脂肪滴を認める病態で、多量飲酒やウイルス肝炎や慢性肝疾患、自己免疫性肝炎をともなわないものを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といいます。
健康診断受診者の14%に認められます。
NAFLDは、
- 非アルコール性脂肪肝(NAFL)
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
とに分けられます。
日本語では1文字違いですが、重症度が異なります。
非アルコール性脂肪肝(NAFL)
アルコールが原因ではない脂肪肝のことです。
NAFLDの8-9割を占めます。
この状態では予後は良好です。
NAFLは、Non-alcoholic fatty liverの略です。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
一方で、同じNAFLDでも、脂肪肝のみでなく、炎症や線維化が加わり、肝硬変や肝臓ガンに進展することがあるのがNASHです。
ですので、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)でも重症型に相当します。
NAFLDの1-2割を占め、その中でも5-20%が肝硬変に進行するといわれています(NASH・NAFLDの診療ガイド、文光堂、2010)。
非→Non、アルコール性→alcoholic、脂肪性肝炎→steatohepatitisという意味で、NASH(読み方はナッシュ)と略されます。
アルコールが原因の場合はこちら→アルコール性肝障害とは?症状、検査、治療法まとめ!
非アルコール性脂肪性肝疾患の原因は?
- 肥満
- 糖尿病(2型)
- 脂質異常症
- 高インスリン血症
などが関連し、非アルコール性脂肪性疾患になります。
つまり、肥満が最大の原因となり、過食や運動不足なども考えられます。
肝臓のメタボリックシンドロームの表現型と捉えられています。
また、PNPLA3という遺伝子が脂肪肝を起こしやすい要因になるということが最近分かってきました。
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非アルコール性脂肪性肝疾患の検査や診断基準は?
特異的な症状はなく、倦怠感などがみられるくらいですが、それで肝臓の疾患を疑われることはなかなかありません。
そのため、血液検査・腹部超音波検査・腹部CT検査・肝生検をおこなう必要があります。
血液検査
- AST(GOT)・ALT(GPT)の上昇(軽度〜中程度50〜150IU/L)
アルコール性では(AST>ALT)とASTが優位になるのに対し、非アルコール性では(AST<ALT)とALTが優位になります。
腹部超音波検査
肝臓が白く見える脂肪肝が確認できます。
白く明るく見えるためにbright liverとも呼ばれます。
また、反射率が高いために深部まで超音波が届きにくい傾向があります。
症例 50歳代女性 NASHと診断されている
肝臓がびまん性に白く明るい(高輝度、高エコー)様子がわかります。
いわゆるbright liverで脂肪肝の所見です。
ただし、エコーでは、NASHと単純性脂肪肝の鑑別は出来ず、最終的な診断は組織診断となります。
腹部CT検査
脂肪肝の場合
NALFであっても、NASHであっても脂肪肝を認めるため、肝臓がびまん性に低吸収域として描出されます。
また脾臓より低吸収で、肝実質CT値の低下を認めます。
症例 60歳代男性 NASHと診断されている
腹部エコにー及び腹部CTで、びまん性の脂肪肝を認めています。
肝臓の形状は辺縁が鈍で、慢性肝障害を疑う所見です。
NASHに矛盾しない所見です。
進行したNASHの場合
ただし、進行したNASHの場合、肝細胞への脂肪の沈着はなくなります。
これをburned-out NASHと呼びます。
こうなるとCTなどの画像ではNASHと診断することはできません。
画像で指摘できるのはあくまで脂肪肝が中心となり、炎症や線維化は画像では捉えられないため、NASHの画像診断には限界があり、有用性は確立していないのが現状です。
(肝硬変における線維化は、Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相の濃染程度と相関する(J Magn Reson Imaging 36:664-671,2012)という報告やまた、近年では、MRエラストグラフィにより肝臓の硬度を測定する試みもあります。)
診断には生検が必要となります。
肝生検
脂肪肝との鑑別のためには、肝生検が重要です。
NASHでは肝臓の炎症を確認するのが大切ですが、小葉を中心に
- 大滴性脂肪沈着
- 肝細胞周囲の繊維化
- 炎症性細胞浸潤
- または、マロリー(Mallory)小体
を認めることもあります。
診断基準
つまり、脂肪肝・肝障害があり、HBs抗原・HCV抗体・各種自己抗体などがなく→飲酒歴がなければNAFLD→さらに鑑別診断のための肝生検でNASHもしくはNAFLと診断されます。
(日本消化器学会:NAFLD/NASH診療ガイドライン2014より)
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非アルコール性脂肪性肝疾患の治療は?
食事・運動療法・基礎疾患の治療が重要となります。
上記の診断基準を元に、NAFLの場合、生活習慣の改善・経過観察が主となりますが、NASHの場合、肥満があるかないかで異なります。
肥満がある場合は、食事や運動療法による減量をおこない、肥満を解消することが目標となります。
また、基礎疾患がある場合、それぞれの治療が重要となりますが
- 糖尿病の場合→ビオグリタゾン
- 高コレステロール血症の場合→スタチンまたはエゼチミブ
- 高血圧の場合→アンジオテジンⅡ受容体拮抗薬
などが選択されます。
そして、疾患がない場合には、ビタミンEを投与します。
参考文献:
病気がみえる vol.1:消化器 P310〜315
内科診断学 第2版 P883・884
消化器疾患ビジュアルブック P182
新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P224
パッと引けてしっかり使える 消化器看護ポケット事典[第2版] P136・137
肝胆膵の画像診断 P281
臨床画像 vol.28,No.12,2012 P1424
最後に
- 30%以上の中性脂肪を主とした脂質が蓄積した脂肪滴を認める病態を非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)という
- 肥満・糖尿病(2型)・脂質異常症・メタボリックシンドロームなどが原因
- 血液検査・腹部超音波検査・腹部CT検査・肝生検をおこなう
- 食事・運動療法・基礎疾患の治療が重要
肥満解消されても、リバウンドも非常に多いものです。
そのため、改善後も生活習慣を見直し、肥満予防の生活を続ける必要があります。