Wernicke's encephalopathy Eye-catching image

意識障害や、眼球運動障害、運動失調といった症状を起こす病気の一つにウェルニッケ脳症があります。

最も多い原因としては慢性アルコール中毒ですが、他の病態が原因となることもあります。

意識障害を起こしうる病気にはたくさんの種類がありますが、この病気は疑うことが重要となります。

今回はこのウェルニッケ脳症(英語表記で「Wernicke脳症」)について

  • 症状
  • 診断
  • 治療
  • 予後

をイラストや実際のMRI画像を交えて、わかりやすく解説しました。


ウェルニッケ脳症とは?

ビタミンB1(チアミン)が欠乏することによって起こる脳症です。

MRIにおける異常な信号は、

  • 第三脳室周囲
  • 中脳水道周囲
  • 第四脳室底
  • 乳頭体

などによくあらわれます。

werrnickke

原因としてビタミンB1の欠乏になるものは、以下のものがあります。

ウェルニッケ脳症の原因は?

冒頭で述べましたように、最も多い原因は慢性アルコール中毒ですが、それ以外にも様々なことで起こります。

  • 慢性アルコール中毒
  • 消化管の手術後
  • 摂食障害
  • 妊娠中の悪阻
  • ビタミンB1を含まない高カロリー輸血

慢性アルコール中毒

「どうしてアルコールでビタミンB1が欠乏するの?」

「関係ないでしょ?」

と思われがちですが、アルコールはビタミンB1の吸収を阻害する働きがあります。

また特にお酒好きな人は、食べるものもろくに食べずただひたすら飲むという傾向にあり、余計にビタミンB1が不足してしまうというわけです。

消化管の手術後

胃の全摘出手術後に栄養欠乏となり、起こりやすいといわれています。

摂食障害

それ以外に、摂食障害で必要な栄養素がとれなかったり、インスタント食品ばかり食べていることによる栄養の偏りも原因となります。

日常生活での食生活(食事内容や摂りかた)が原因となると分かっていれば、ならないように予防も可能になってきますよね。

妊娠中の悪阻

妊娠中の悪阻によって食べるものもろくに口に出来ない状況となり、点滴をするも、そこにビタミンB1が(ブドウ糖のみ)入っていないと、ウェルニッケ脳症になることもあります。

ウェルニッケ脳症だとどんな症状があらわれる?

  • 意識障害
  • 眼球運動障害
  • 運動失調

が、三大特徴でもあります。

それぞれについて説明します。

意識障害

  • 無欲
  • 注意力散漫
  • 傾眠(読みは「けいみん」すぐに眠ってしまうこと)
  • 昏睡(こんすい)
  • せん妄(頭が混乱し、興奮状態)
  • 錯乱状態(気持ちや考えが混乱した状態)
  • 見当識障害(自分が今置かれている状態が理解できない)
  • 健忘(記憶障害)
  • 記銘力(きめいりょく)障害(新たに体験したことを覚えられない)

このような精神症状があらわれます。

眼球運動障害

  • 外直筋麻痺(読み方は「がいちょくきんまひ」外方に眼を動かせない状態)
  • 内斜視(黒目がまっすぐ向かない状態)
  • 瞳孔異常
  • 内眼筋麻痺(目の内側の筋肉が麻痺した状態)
  • 水平眼振(眼球が自動的に動揺する状態)
  • 複視(ものが二重に見える)

このような眼球に障害が起き、これにより目眩があらわれることもあります。

運動失調

  • 体幹失調

体の体幹が失われ、まっすぐに保てない、つかまり立ちでも不安定な歩行状態となります。

 

ウェルニッケ脳症の診断は?

血中のビタミンB1の測定、MRIによる画像診断が有用です。

通常の採血検査ではビタミンB1は測定しないため、症状やMRI画像所見から、この疾患を疑わないと診断には結びつきません。

それゆえ、冒頭にも申し上げたように、この病気は「ウェルニッケ脳症かもしれない」と疑うことが診断に重要であると言えます。

MRIによる画像診断では、T2強彫像やFLAIR像で、第三脳室周囲・中脳水道周囲・第四脳室底・乳頭体などに対象的に高信号域(白く映った状態)が確認できます。

また、最終的に脳萎縮をともなうこともあります。

症例:70歳代男性 運動失調

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拡散強調像及びT2強調像において視床内側、中脳水道周囲に異常な高信号を認めています。

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FLAIR像の冠状断像において、視床内側(左側)及び乳頭体(右側)に異常な高信号を認めています。

ビタミンB1を測定すると、低下を認めておりウェルニッケ脳症と診断され、治療されました。

この症例を動画でもご覧ください。

ウェルニッケ脳症の治療は?

ビタミンB1の欠乏によって起こるため、速やかにビタミンB1を補給する必要があります。

方法としては、入院管理の元、大量経静脈的投与(点滴)がおこなわれます。

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また、ビタミンB1投与後にブドウ糖を補充することもあります。

(ブドウ糖は必ずビタミンB1投与後に行わなければ、逆に投与前に行うとウェルニッケ脳症を誘発する)

治療は早期であればあるほど、効果が発揮されやすく、3日〜5日程度の入院で済みます

しかし、治療開始が遅れればそれだけ回復は遅く、後遺症を残す可能性もあります。

また、原因を取り除くべく

  • 断酒
  • 食生活の見直し

も必要です。

特にアルコールが原因の場合は、酒を断つことが重要になります。

また妊娠中の場合、早期に治療を行わなければ赤ちゃんに栄養を送れないことにも繋がりますので、重い悪阻を我慢しないようにしましょう。

ウェルニッケ脳症の予後は?

速やかにビタミンB1の投与を行えば回復が見込めます

しかし、この投与の開始が遅れると、神経後遺症や死に至ることもあります。

後遺症には、以下のようなものがあります。

神経後遺症とは?

  • 記銘力障害
  • 健忘
  • 見当識障害
  • コルサコフ症候群(Korsakoff)

などがあり、コルサコフ症候群を生じる場合、ウェルニッケ・コルサコフ症候群とも呼ばれます。

コルサコフ症候群になると、精神疾患や記憶の錯誤などが起こり、回復は困難となります。

最後に

  • ビタミンB1(チアミン)が欠乏することによって起こる脳症
  • 慢性アルコール中毒や胃全摘後、妊娠中の悪阻や摂食障害、食生活が原因となる
  • 意識障害・眼球運動障害・運動失調が特徴的な症状
  • 画像診断が有用
  • 速やかにビタミンB1の投与を行う必要がある
  • 治療開始が遅れれば予後不良、後遺症が残ることも

 

ビタミンB1を多く含む食材には

  • 豚肉
  • 大豆
  • 昆布
  • うなぎ
  • 海苔
  • 明太子

などがあります。

炭水化物と合わせて、これらのビタミンB1を摂取することでエネルギーともなり、大事な栄養源となるため、日頃から注意しておきたいですね。




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