乳児期に受ける予防接種の1つに麻疹(はしか)ワクチンがあります。
実はこの麻疹予防接種を含めて麻疹感染後の数年経過してから、発症する難治性の中枢神経疾患があり、その病名を亜急性硬化性全脳炎と言います。
今回はこの亜急性硬化性全脳炎(SSPE)について
- 症状
- 診断
- 治療法
をご説明します。
亜急性硬化性全脳炎とは?
亜急性硬化性全脳炎(SSPE:subacute sclerosing panencephalitis)とは、
- 麻疹ワクチン予防接種後
- 麻疹ウイルス感染後
3年~10年の潜伏期間後に発病する難治性の中枢神経疾患です。
予防接種後や感染からかなりの時間を経て発症するため遅発性ウイルス感染症(slow virus infection)に分類されます。
麻疹ウイルスが神経細胞や乏突起膠細胞に持続的に感染して、神経細胞脱落、脱水をきたすことが原因とも言われていますが、詳しい発病のメカニズムは未だ分かっていません。
- 麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
- JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(PML)
が知られています。
[adsense]
亜急性硬化性全脳炎の症状は?
麻疹感染症状
2歳未満で麻疹にかかると麻疹感染症状として
- 発熱
- 発疹
- コプリック斑(Koplik)
が見られます。
亜急性硬化性全脳炎による症状
そして、数年後(6-15歳)で麻疹ウイルスが原因となり、亜急性硬化性全脳炎を発症し、その症状として
- 性格変化
- 知能低下
- 痙攣
- ミオクローヌス
というような、怒りっぽくなったりという感情不安定や、成績低下や記憶力の低下、今まで出来ていたことが出来なくなるような症状から、手足の筋肉が突然激しくビクつくなどの症状が現れます。その発症までの数年間は無症状です。
症状が進行すると
更に、症状が進行すると
- 意識障害
- 無動性無言
- 除脳硬直
- 昏睡
が見られるようになり、眼球運動や嚥下以外の自発的運動は見られなくなり、最終的には死に至ります。
亜急性硬化性全脳炎発症から症状の進行までは、1~数年程です。
亜急性硬化性全脳炎の症状のステージ分類
- ステージ Ⅰ(第1期):知能障害や性格変化、傾眠傾向
- ステージ II (第2期):痙攣運動障害、ミオクローヌス、不随意運動
- ステージ III(第3期):昏睡、後弓反張、除脳硬直状態
- ステージ IV (第4期):大脳(皮)質機能喪失状態
上記のステージⅢの段階で歩行不能となり、ステージⅣで意識障害となります。
参考)認知症(あるいは知的退行、意識不鮮明)とミオクローヌスを伴う病態
- Creutzfeldt-Jakob病(CJD):通常60歳以上
- 亜急性硬化性全脳炎(SSPE):25歳以下
- 神経梅毒
- 橋本脳症
- ビスマス中毒
[adsense]
亜急性硬化性全脳炎の診断は?
- CT・MRI検査
- 脳波検査
- 脳脊髄液検査
CT・MRI検査
CTに比べ、MRIの方が早期診断が可能です。
それでも発症から数ヶ月は異常所見は認められません。
症状の進行と共に、脳萎縮や脳室の拡大が確認できます。
進行時のステージⅡでは、CT像では、後頭葉や頭頂葉、側頭葉後部の皮質や、皮質下白質や大脳基底核に低吸収域が認められます。T1・T2延長病変が認められ、進行期にはびまん性の皮質萎縮や白質病変が確認できます。
脳波検査
高振幅の鋭波から始まり、その後に高振幅の徐波が現れ、間欠期には平坦な脳波となります。
高振幅徐波を特徴とする長周期(数秒~十数秒の長い周期)の周期性同期性放電(PSD)が特にⅡ期からⅢ期にかけ、見られます。
脳脊髄液検査
麻疹ウイルス抗体価、lgGが上昇が確認できます。
[adsense]
亜急性硬化性全脳炎の治療法は?
原因療法として
- イソプリノシン経口投与(免疫機能を調整)
- インターフェロン(抗ウイルス薬)
- リバビリン髄液腔内または脳室内投与
が行われます。
また、対処療法としてミオクローヌスや痙攣などに対し、薬物投与が行われます。
治療を行わなければ発症後1年ほどで無動性無言に陥り、数年で死に至りますが、治療を行うことで延命が可能です。
最後に
- 麻疹感染や麻疹予防接種3~10年の潜伏期間後に発病する
- 症状は4段階のステージに分けられる
- 画像診断や脳波検査、脳脊髄液検査で診断される
- 原因療法や対処療法が行われる
最近の治療では、症状が改善したり、進行が遅くなったり、進行を防ぐことも可能になってきたと言われていますが、早期に診断確定し、治療を開始することが最も大切です。