頭部に外傷を受ける・・・子供の場合、転んだり滑ったり、ぶつけたりして、頭部外傷を受けた経験のある子は多いと思います。
頭部は様々な神経が集まる大事な場所、病院に行くと「念のため頭部CTを撮ってみましょう。」と言われることも多いでしょう。
ですが、気になるのは被曝の問題です。CTはレントゲンとは比べものにならない量の被曝をするからです。そこで今回は頭部CTによる被曝ついて
- 小児への被曝を減らすべき理由
- 被曝量
などをお話ししたいと思います。
小児への被曝を減らしたほうが良い理由
2001年アメリカで衝撃の論文が発表されました。その内容は
米国で年間60万件行われる15歳以下の頭部・腹部CTにより、将来約500人がCT被曝によって生じるがんで死亡する計算となる。(AJR Am J Roentgenol,179:289-296,2001)
というものです。
検査のために受けたCTが原因で発ガンしてしまうということです。
これにより米国小児放射線学会は、ALALAを、米国の厚生労働省であるFDAはCT被曝低減に関する警告を発表しました。
小児は成人よりも放射線に対する感受性がかなり高く、また当然成人よりは余命が長いので、放射線による障害が今後出てしまう可能性が高く、放射線による発ガンの可能性は成人の数倍であることがわかっています。
ただし、発ガンには様々な環境ホルモンなど他の発ガンの因子の影響を受けるため、正確にCT検査による被曝が原因で発ガンをしたと結論づけることはできません。
また、これまでに純粋にCTによる被曝が原因で発ガンし死亡したという報告は1例もありません。さらには、この論文は実際にCT検査後に発ガンした小児の数を数えたわけではなく、放射線生物学的、疫学上の観点からリスクを推定したもので、いわば机上の推定ともいえるものでした。
小児の被曝の影響の最新の報告は?
では次に小児の被曝による発ガンの最新の論文を見ていきましょう。以下の2つの論文は先ほどの机上の推論ではなく実際に発ガンしたかどうかをチェックして数えているものです。
2012年のイギリスのPearceらの論文
1985年から2002年までのイギリスで1回以上CT検査を受けた17万人を対象に実際に発ガンが増えたのかを検証しています。
論文によると、
- 5-10回の頭部CTで白血病のリスクが3倍
- 2-3回の頭部CTで脳腫瘍のリスクが3倍
に増えたと報告しています。(Lancet 380:499-5-5,2012)
2013年のオーストラリアのMathewsらの論文
1985年から2005年までのオーストラリアで19歳以下の1,090万人を対象に調査されました。
論文によると、
- CT検査歴のあるコホートの方が検査歴のない群に対して、発ガン率が24%高かった。
と報告されています。(BMJ 346:f2360,2013)
ガンには様々な固形ガンのほか、白血病、骨髄異形性症候群、その他のリンパ系腫瘍が含まれます。
これら2つの論文から、CT検査により小児の発ガンの可能性が上がることがわかりました。しかし、これらの論文にも矛盾点が指摘されています。
また2つの論文ともに具体的なCT線量などの記載はなく、線量と発ガンの関係も不明なのです。
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頭部CTの被曝量はどれくらい?
頭部CTによる被曝量は以下の通りです。
- 1回の頭部CTによる被曝量は、吸収線量にして50mSV前後
- 全身換算すると1回のCTによる被曝量は、1mSV~3mSV程度
CTの場合、X線とは異なり、片側一方方向から撮影するのではなく、360度の方向から照射されます。1回のCTによる被曝量は、吸収線量にして50mSV前後です。
シーベルトというのは、人が放射線を受けた時に身体に受けるの影響の単位のことを言います。
mSVとは、ミリシーベルトと読みますが、原発での事件でよく耳にした単位がマイクロシーベルトだと思いますが、この50mSVがどれくらいのものなのか?というと・・・マイクロではなくミリなので、1mSVは1000mSVということになります。
しかし、この放射線は日常生活でも様々な場所で浴びているんです。例えば
- 食物
- 空気
- 空
- 地面
その他、様々な電化製品などからも浴びているため、地球上で生活するうえで、年間2,4mSVは受けていると言われています。
照射されるのは、頭部のみなので、もちろん全身に放射線を受ける訳ではありません。身体の一部のみだけなので、一気に上記のような放射線被曝症状が出る訳ではありません。
そのため、この一部にのみ受けた被曝量を全身に割り当てて換算すると、1mSV~3mSV程度と言われています。そう考えると、日常生活から受ける年間被曝量が2,4mSVなため、そう大差ない程度です。
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最後に
小児の被曝が発ガンを増やすという論文が出ていますが、それらにも矛盾点などがあり、明確に結論づけることはできません。
ただし、被曝しないことに越したことはなく、全世界において被曝を減らそうという動きが出ているのも事実です。
転んで頭を打った場合、すべてに頭部CTを撮影するのではなく、本当にCTが必要なのかをチェックすることが重要です。
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また被曝を減らすべきなのは小児に限らないことであり、成人の場合も、見たい以外の意味のないルーチンでの胸腹部CTや全身CTは慎むべきです。