肺炎は発症した時点のその人の生活状況により、
- 市中肺炎
- 医療・介護関連肺炎
- 院内肺炎
の3つに分類されます。下にいくほど、耐性菌が増えて重症化しやすいとされます。
今回は市中肺炎について、その原因菌から症状、重症度分類、治療までまとめてみました。
市中肺炎とは?
一般的に病院外で社会生活を営む健常人に起こる肺炎を市中肺炎といいます。つまり、介護が必要であったり、入院中ではない方ということです。
上気道のウイルス感染に引き続いて生じることが多いとされます。
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市中肺炎の原因菌は?
肺炎には定型肺炎と呼ばれる細菌性肺炎の他に、マイコプラズマなどが原因となる非定型肺炎があります。その2つに分けて見ていきましょう。
市中肺炎の細菌性肺炎の原因菌は?
- 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae):最多
- インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)
- モラキセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)
と言った細菌が中心となります。その他、
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
- 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
- 肺炎桿菌(クレブシエラ)(Klebsiella pneumoniae)
など院内肺炎の原因となりやすい菌が市中肺炎の原因菌となることもあります。
市中肺炎の非定型肺炎の原因菌は?
一方で非定型肺炎では、
- マイコプラズマ (Mycoplasma)
- クラミドフィラ(Chlamydophila) :以前はクラミジアと呼ばれていた。
- インフルエンザ ウイルス(Influenzavirus)
が原因菌となります。
原因菌は推定できる?
これらの菌は、肺炎になった人の喫煙状態やアルコール多飲、職業暴露やペットの有無などを考慮して原因菌を推定していくことになります。
肺炎球菌性肺炎
レントゲンやCTで大葉性肺炎という明らかな陰影を認めたり、咳や鉄さび色の痰が出たりすることが特徴です。
インフルエンザ菌による肺炎
小児に多いとされ、肺炎のほか、中耳炎や副鼻腔炎、髄膜炎の原因となります。
肺炎桿菌(クレブシエラ)性肺炎
喫煙者やアルコール多飲、糖尿病の人による誤嚥により生じるとされます。
黄色ブドウ球菌性肺炎
気管支肺炎から始まり、肺膿瘍や膿胸といって肺や胸腔に膿(膿)を作ることがあります。
市中肺炎の症状は?
- 発熱
- 呼吸苦
- 咳
- 喀痰
と言った非特異的なものです。
ただしこれらの症状が見られないこともあるので特に高齢者には注意が必要です。逆に高齢者では、咳も熱もないのに、肺炎で急性に意識障害をきたすことがあります。
市中肺炎の重症度分類は?ガイドラインは?
市中肺炎の重症度分類(A-DROPシステム)とは?
以下の5項目で評価します。
- 年齢(Age)
- 脱水(Dehydration)
- 呼吸状態(Respiration)
- 意識レベル(Orientation)
- 血圧(blood Pressure)
それぞれ大文字部分を取って、A-DROPです。
年齢
男性の場合70歳以上、女性の場合75歳以上
脱水
BUN 21mg/dl以上または脱水あり。
呼吸状態
SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下)
意識レベル
意識障害がある。
血圧
収縮期血圧が90mmHg以下
これら5項目を1つ1つ評価をして、重症度分類をします。
- 軽症:5つの項目いずれも満たさない。
- 中等症:1つまたは2つ満たす場合。
- 重症:3つ満たす場合。
- 超重症:4つあるいは5つを満たす場合。
ただし、ショックがあれば1項目のみでも超重症とします。(成人市中肺炎診療ガイドライン、2007)
これを評価することで、肺炎患者の予後と強い相関を示すといわれています。
ちなみに、院内肺炎の場合は、陰影の強さも評価項目に入っています。→院内肺炎の重症度分類。
市中肺炎の診断は?
肺炎の菌の同定
肺炎の人の喀痰をグラム染色し見える菌には、
- 肺炎球菌:グラム陽性双球菌
- インフルエンザ桿菌:グラム陰性短桿菌
- モラキセラ・カタラーリス:グラム陰性球菌
があります。クレブシエラ(グラム陰性桿菌)も稀に見えると言われています。
肺炎の原因菌で同定しにくいものは?
一方で、マイコプラズマ、クラミドフィラ、レジオネラといったいわゆる非定型肺炎を起こす菌はグラム染色では見えません。
また、マイコプラズマ、クラミドフィラの血清学的検査は偽陰性・偽陽性が多く診断するのが難しいと言われています。
レジオネラについては、尿中抗原検査があり、感度・特異度ともに高いのですが、血清型1,6型の2つが人体に病原性を有し、この検査では1型のみしか検出できず、尿中レジオネラ抗原が陰性であっても、否定することができません。
市中肺炎の治療は?
菌を同定したらそれに対して抗生物質を投与します。
肺炎球菌の治療
肺炎球菌の多くはペニシリンに感受性があります。しかしほとんどがマクロライド耐性と言われます。
ですので、原因菌がわからない場合には、マクロライド単体というのは効かない可能性がありますので、ペニシリンであるβラクタム+マクロライド系抗生剤を処方するのが妥当です。
インフルエンザ桿菌、モラキセラの治療
第3世代セファロスポリンで治療を始めて、培養の結果の感受性を見ながらde-escalationしていきます。de-escalationとは抗生剤をより狭めていくということです。
非定型肺炎の治療
マイコプラズマ、クラミドフィラといった非定型肺炎にはペニシリンであるβラクタム系の抗生物質は効きません。従って、マクロライド・ニューキノロン系の抗生物質を用います。
非定型肺炎なのか定型肺炎なのかどちらかわからない時には、両方つまり、βラクタム+マクロライド系などを使って治療を開始します。
ニューキノロンの落とし穴
レボフロキサシンなどのニューキノロンは定型肺炎にも非定型肺炎にも効果的であり、欧米などでは好んで用いられますが、実は落とし穴があります。それは結核にも効いてしまうということです。
結核に効いても根本的に結核の治療にはつながりません。つまり結核であることがマスクされてしまうということです。
ですのでキノロンは結核が除外できた場合に使うべきと言われますが、実際結核を除外するのは難しいケースが多いです。
さらにキノロンは緑膿菌という菌までカバーしてしまいますが、市中肺炎でここまでカバーする必要がありませんので、無駄も多いとも言えます。
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市中肺炎の最近のトピックスは?
市中肺炎型のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA)
MRSAとは、メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌のことで、メチシリンという抗生物質が効かない黄色ブドウ球菌という意味です。
主に、院内肺炎などで見られる傾向にありましたが、最近、市中肺炎型のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA:community acquired methicillin resistant Staphylococcus aureus)の増加が危惧されています。
マクロライド耐性マイコプラズマ
また、非定型抗酸菌の代表であるマイコプラズマ肺炎には、マクロライド系薬が効果的と長く使われていますが、このマクロライドが効かないマクロライド耐性のマイコプラズマが増加しているといわれています。
もともとこれは小児に報告されていましたが、近年成人においても増加が報告されています。
まとめ
- 市中肺炎とは、病院外で健常人に起こる肺炎のこと。
- 原因菌は肺炎球菌が最多。非定型肺炎ではマイコプラズマが多い。
- 重症度はA-DROPで評価する。