胃の上部にある食道に静脈瘤ができるものを食道静脈瘤といいます。
静脈瘤というと、足(下肢)にできるコブのようなボコボコと浮き上がったものならば見たことがあり想像しやすいかもしれませんが、静脈の壁の一部が薄くなり、その血管が膨らむことで起こります。
では、食道静脈瘤(英語表記でEsophageal varices)とはどういったものなのでしょうか?
- 症状
- 原因
- 治療法
について、イラストと動画で解説していきたいと思います。
食道静脈瘤とは?
肝硬変などが原因となり、門脈圧亢進をきたし、門脈と体循環系の間に行き場のなくなった血液が別な道を作るために起こるものですが、それが食道で起きてしまうものが食道静脈瘤です。
食道粘膜下層の静脈が拡張し、ボコボコと波を打って膨らんだ状態となります。
内視鏡で見ると次のようになります。
食道静脈瘤を詳しくみるにはこのように内視鏡検査をする必要がありますが、全体の側副路の状態をチェックするには、造影剤を用いた造影CT検査が有用です。
上のCT画像のように、肝硬変の有無や、食道静脈瘤以外の側副路(今回写っているのは傍食道静脈瘤、傍胃静脈瘤)の評価をすることができます。
食道静脈瘤の場合にあらわれる症状は?
- 吐血
- 下血
- ショック
などが特徴的な症状ですが、それが突然あらわれます。
静脈瘤じたいが痛むわけではないため、破裂前は無症状です。
静脈瘤が破裂してはじめて上記のような症状が出現します。
吐血によってショックを起こし、血圧が低下することによって意識混濁をともなう場合もありますが、黒いタール便で気づくこともあります。
そもそも、食道静脈瘤の原因はなに?
門脈圧亢進によって起こるといいましたが、門脈圧亢進は肝硬変などの慢性肝疾患よって起こります。
食道静脈瘤と門脈圧亢進はどのような繋がりがあるのか・・・気になりますよね?
正常な場合はこのように、いずれも門脈を通って血液が流れています。
ですが門脈圧亢進が起こると、門脈を通るはずだった血液が行き場をなくしてしまいます。
その行き場をなくした血液が、別な道(迂回路)を食道に作ってしまったものが、食道静脈瘤です。
食道静脈瘤と胃静脈瘤の発生の仕組みや治療法に関する動画ですので、ご覧ください。
食道静脈瘤の治療法は?
人間ドックなど健康診断でたまたま破裂前に発見できれば、破裂を防ぐ予防的治療を行います。
破裂後ならば輸液や輸血などの治療を優先し、状態が安定したら緊急治療を行います。
- 内視鏡的硬化療法(英語表記で「endoscopic injection sclerotherapy」略して「EIS」)
- 内視鏡的静脈瘤結紮術(読み方は「ないしきょうてきじょうみゃくりゅうけっさつじゅつ」英語表記で「endoscopic variceal ligation」略して「EVL」)
- SBチューブ(英語表記で「sengstaken blakemore tube」)
内視鏡的硬化療法(EIS)
破裂前の食道静脈瘤に対して第一選択となります。
口から食道に内視鏡を通し、バルーンを膨らませ、静脈瘤内に針をさし硬化剤を注入します。
血流は下から上に流れているため、硬化剤が別な部位に流れていかないようにするために、バルーンを膨らませる(バルーンの場所で硬化剤は止まる)という方法で行われます。
これによって静脈を固め、破裂を予防します。
しかし、硬化剤が漏れると肝障害や腎障害などの副作用が現れることもあり、注意が必要です。
内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)
破裂した食道静脈瘤に対して、緊急に行われる治療法として第一選択されます。
内視鏡を通し、静脈瘤の根元をゴムバンドなどを用いてクリッピング(結束)します。
硬化剤を使わないため、副作用の心配もありません。
- 早期に再発する可能性がある
- 食道破損
- 穿孔(読みは「せんこう」穴が開くこと)
EVLをおこなった後にEISをおこなうと、再発率が低下します。
SBチューブ
破裂した食道静脈瘤に対し、内視鏡による止血が困難な緊急時に選択されます。
チューブを食道に通しバルーンを膨らませ、内側から圧迫することで止血を行います。
ですが、患者の苦痛も大きく、効果も一時的です。
あくまでも緊急時の対応としての目的のためで、長時間に及ぶと圧迫壊死の危険性も出てきます。
そのため、できるだけ早期(12時間以内)に抜き取り内視鏡治療を行う必要があります。
最後に
- 食道静脈瘤は、門脈圧亢進をきたし、門脈と体循環系の間に行き場のなくなった血液が別な道を作るために起こるもの
- 破裂前は無症状
- 破裂すると、突然の吐血・下血・ショック症状が起こる
- 肝硬変などの慢性肝疾患によって起こる
- 破裂前では、内視鏡的硬化療法(EIS)が第一選択
- 破裂したものに対しては、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が第一選択
- 破裂したものの、内視鏡が行え場合には、緊急処置としてSBチューブを選択
しかし、肝臓が悪い場合には予防治療にも危険を伴います。
破裂前の段階でしたら、まずは肝機能の数値を正常に戻すための治療も必要となります。