イレウスというと聞き慣れない病名に思われるかもしれませんが、別名「腸閉塞」とも言います。
腸閉塞なら「聞いたことがある」という方も多いと思いますが、重症例では死に至ることもある大変怖いものです。
今回は、そんなイレウス「腸閉塞」(英語表記で「Ileus」)について
- 原因
- 症状
- 検査
- 治療
イラストや実際のCT画像を交えて分かりやすくまとめました。
イレウスとは?
イレウスとは、別名腸閉塞ともいいます。(厳密には少し違うのですが。)
その字の通り、腸管が何らかの原因により閉塞され、通過障害(腸の流れが詰まった)が起きた状態を指します。
このイレウスは大きく分けて、機械性イレウスと機能性イレウスに分類されます。
言葉のイメージとして、
- 機械性イレウスは、何らかの理由で腸管の途中で行き止まりができてしまうことによるイレウス
- 機能性イレウスは、腹膜炎など腸管の外で起こっていることが原因となり、腸管の蠕動が止まってしまうことによるイレウス
です。
機械性イレウスは行き止まりがある。
機能性イレウスは行き止まりがない。
と、とりあえず覚えておきましょう。
そしてさらに、
- 機械性イレウスは単純性(閉塞性「へいそくせい」)イレウスと複雑性(絞扼性「こうやくせい」)イレウスに
- 機能性イレウスは麻痺性イレウスと痙攣性イレウスに
分けられます。
補足)欧米のイレウスの定義とは?
これまでイレウスといえば、日本では上のように分類されてきました。
ところが欧米では、イレウス=機能性イレウスにのみ用いるのが一般的です。
ですので、日本でも今後定義がそのように変わるかもしれません。
イレウスの原因は?
原因は、上記でご説明した分類によって異なりますので、単純性(閉塞性)・複雑性(絞扼性)・麻痺性・痙攣性それぞれ分けてご説明します。
単純性(閉塞性)イレウス
イレウスの中でも最多となるもので、腸管の中の空洞が物理的に閉塞して起こります。
- 石(胆石・糞石・胃石)
- 炎症
- 先天性腸閉鎖症
- 外傷
- 癌の転移
物理的な要因として、最も多いのが術後の癒着で、小腸が閉塞することが多く、血流障害はともないません。
腸管内ならば、どこにでも起こることがあるものですが、大腸の場合は大腸癌によるものが原因として多くあります。
複雑性(絞扼性)イレウス
単純性イレウスと基本的には同じなのですが、違いは腸管への血流障害をともなうものであるということです。
(絞扼性とは、血流障害を意味します。)
- 術後の癒着
- 索状物(さくじょうぶつ)による腸管絞扼(ちょうかんこうやく)
- 腸重積症
- 腸軸捻転症
- 嵌頓ヘルニア(かんとん)
などが原因となり起こります。
腹部手術(盲腸や帝王切開など、様々な腹部でおこなう手術)によって、癒着物など何らかの消化を邪魔するもの(索状物)ができ、通路を障害した状態。
麻痺性イレウス
腸管へと流れる血液の流れや神経が障害されたことにより、腸管の運動が麻痺し、正常な運動が止まる状態をいいます。
- 腹部の手術
- 急性腹膜炎
- 急性腸管膜動脈閉塞症
- 糖尿病
- 薬剤
などが原因です。
痙攣性イレウス
腸管の痙攣が起こるもので、原因として
- 腹部打撲
- 神経疾患
- 薬物中毒(鉛・ニコチン・モルヒネ)
- 胆石
- 尿路結石発作
などがあります。
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イレウスの症状とは?
- 悪心
- 嘔吐
- 腹痛
- 膨満感
- 圧痛(押さえると痛い)
- 排便や排ガス(オナラ)の停止
- 血便
などが症状としてあらわれます。
- 単純性イレウスの場合は・・・間欠的な腹痛・腹部膨満感・嘔吐・排ガス・排便の停止
- 複雑性イレウスの場合は・・・突発する持続的な腹痛・嘔吐・腹部膨満・ショック
- 麻痺性イレウスの場合は・・・徐々に上記のような自覚症状があらわれる
- 痙攣性イレウスの場合は・・・周期的に上記の症状が起こる
特に複雑性イレウスは、症状が重篤となることが多いとされています。
また、上記のような症状が出現することによって、脱水症状となったり、細菌が増殖することもあります。
また、重度になるとショックを起こすこともあります。
イレウスの診断は?
診察
上記でご説明したような症状を確認するとともに、腹部に聴診器を当て診察すると腸雑音が、単純性の場合は亢進・金属音が、複雑性の場合は低下・消失します。
血液検査
- 脱水状態となっていれば血液濃縮
- 嘔吐をともなうと電解質喪失(白血球の上昇)
- 腸管壊死におちいると代謝性アルカローシス
などがみられます。
嘔吐・循環血液量減少・利尿薬の使用が原因となり、腸管壊死に陥ると、および低カリウム血症HCO3(重炭酸イオン)の増加でPCO2(二酸化炭素分圧)増加がある場合とない場合がある。
しかし、ph(水素イオン)値は正常である。
レントゲン検査
腸管の拡張の有無、拡張している腸管が小腸なのか大腸なのか、ニボー像(液面形成)の有無などを確認します。
腸管の拡張の基準としては、
- 小腸の場合:2.5cm
- 大腸の場合:6cm
以上とされています。
症例
(出典:医師国家試験過去問109H13)
腹部レントゲン検査により、小腸の拡張及びニボー像が確認できる。
CT検査
確定診断にはCTが有用で、閉塞した部位や、ガスや液体の貯留、腸管の拡張が画像で確認できます。
造影CTでは、染まりの悪い腸管がないかを確認します。
症例 50歳代女性 子宮全摘後
造影CTで小腸の拡張を認めています。
下腹部の左側(向かって右側)に癒着を示唆する所見があり、この場所で腸管が細くなっています。
癒着に伴う機械性イレウス(単純性イレウス)が疑われます。
染まりの悪い腸管は認めませんでした。
イレウス管を用いて保存的に治療されました。
症例 30歳代男性 Hirshusprung病で手術歴あり。
造影CTで、小腸の拡張及び、Whirl sign(ワールサイン)と呼ばれる渦巻きのようなサインを認めています。
腸間膜捻転による絞扼性(複雑性)イレウスと診断され、緊急手術となりました。
症例 80歳代女性 腹痛
こちらは造影剤を用いていない単純CTで撮影されています。
- beak signと呼ばれる鳥の嘴(くちばし)のような所見
- 単純CTなのに小腸が高吸収(白い)を示している。
- 腸間膜に著明な浮腫性変化を認めている。
といった所見から、絞扼性イレウスを強く疑う所見です。
緊急手術となり、内ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断されました。
超音波検査
腸管の運動や、腸内容物などの移動性を見るのに有用で、絞扼があればイレウスを疑います。
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イレウスの治療は?
保存的治療と手術が、診断結果に基づき選択され、決定します。
保存的治療
基本的に放置しても自然回復は見込めないため、閉塞性イレウスの軽度なものや麻痺性イレウスなどが、この保存療法の適用となります。
- 絶飲食
- 輸液
- 腸管の減圧
- 原因治療
がおこなわれます。
減圧方法としては、鼻からイレウス管(チューブ)を挿入する方法と、肛門から挿入する方法があります。
それによって、胃腸内容物を吸引し、洗浄をおこなったり、バルーンを膨らませて狭窄部を広げる処置をします。
持続的排液は自然に出るのを待ちます。
また、廃液でチューブが詰まりそう場合には注射器を管の先に装着して引き、廃液量のチェックも行われます。
大腸癌イレウスの場合には、減圧処置としてステント治療を選択することもあります。
手術
- 閉鎖性イレウスで、保存療法をおこなっても改善しない場合
- 絞扼性イレウスが疑われるとき
は、手術を選択します。
また、複雑性イレウスや腸管虚血や腸管壊死を疑う場合には、緊急手術が必要となります。
壊死を伴うと、穿孔→腹膜炎→敗血症→全身臓器不全→死へと繋がることもあるため、予後の為に緊急を要します。
手術では、絞扼の解除や腸管の切除を目的とします。
症例
(出典:医師国家試験過去問110I31)
絞扼性イレウスにより壊死した腸管が黒くなっているのがわかります。。
- 参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P146〜155
- 参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P859・860
- 参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P134〜137
最後に
- 腸管が何らかの原因により閉塞され、通過障害が起きた状態
- 機械的イレウスは単純性イレウスと複雑性イレウスに、機能的イレウスは麻痺性イレウスと痙攣性イレウスに分類される
- 分類によって原因が異なる
- 悪心・嘔吐・腹痛・膨満感・圧痛・排便や排ガスの停止・血便・ショックなどの症状があらわれる
- 診察・血液検査・CT検査・超音波検査をおこない診断する
- 閉塞性イレウスの軽度なものや麻痺性イレウスなどが、保存療法の適用
- 閉鎖性イレウスで、保存療法をおこなっても改善しない場合や絞扼性イレウスが疑われる時に手術が選択される
- 複雑性イレウスや腸管虚血や腸管壊死を疑う場合には、緊急手術
予後は、再発を防ぐためにも排便コントロールが重要です。
食事や生活面から見直し、気をつけていくことが予防として必要でしょう。