炎症マーカーとしては最も有名なのはCRPですが、そのCRPよりも細菌感染症に対しての有用性が高いと言われているのがプロカルシトニン(PCT)です。

ただし、CRPと同様にプロカルシトニンの値が上昇している点だけを見て判断することはできず、他のデータや症状などと合わせて総合的に考えていく必要があります。

そんな、プロカルシトニンについて、

  • プロカルシトニンの感度特異度
  • プロカルシトニンの基準値(正常値)・異常値・カットオフ値
  • プロカルシトニンの問題点

などについてまとめました。

まずプロカルシトニン(PCT:pro-calcitonin)とは?

プロカルシトニンはカルシトニンの前駆タンパクです。

プロカルシトニンは、甲状腺(C細胞)で産生されるカルシトニンの前駆タンパクであり、健常人では血中にほとんど認めません。

ところが、細菌感染や敗血症、エンドトキシンや炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-6など)の刺激で、甲状腺以外の肝臓、肺、腎臓、筋肉などからも産生されるようになり、プロカルシトニン値は上昇します。

一方でウイルス感染や膠原病などでは産生されず、上昇しません。

感染症の場合、細菌感染なのかウイルス感染なのかの鑑別にこのプロカルシトニンは有用なのです。

つまり、感染がある場合、

  • プロカルシトニンが高ければ、細菌感染
  • プロカルシトニンが低ければ、細菌以外の感染

と判断することができます。

ウイルス感染症で上昇しにくいのは、ウイルス感染症で上昇するIFNαがプロカルシトニンを合成するのに必要なTNFを阻害するためと言われています。(Journal of Clinical Microbiology 2010;48:2325-9)

プロカルシトニンの感度は?特異度は?

CRPと似たようなものだということです。

ただし、CRPよりも有用性が高いと言われています。

とはいえ、CRPより少し有用性が高い程度あり、細菌感染症か非感染性の炎症の診断に対する

  • 感度は88%、特異度は81%です(Clin Infect Dis(2004)vol.39(2)pp.206-17)。

※ちなみにCRPは感度81%、特異度67%  (Clin Infect Dis(2004)vol.39(2)pp.206-17)でした。

プロカルシトニンはCRPよりも感度・特異度ともに高いことがわかりますが、プロカルシトニンの値だけを見て、細菌感染の有無を決定することはできないということです。

 

プロカルシトニンの正常値は?基準値は?

プロカルシトニンの基準値(正常値)は

  • 0.50ng/mL未満(健常人では0.033±0.003ng/ml)

です(Crit Care Med 2008;36:941-52)
(単位はng/ml(ナノグラムパーミリリットル)です。)

ただし、0.25ng/mlをカットオフとする場合もあり、0.25ng/mlを正常、それ以上の場合に外来で抗菌薬を使用しようという報告もあります。

プロカルシトニンは敗血症においてのみ保険適応がありますが、その敗血症の重症のカットオフ値は

  • 2.00ng/mL以上

です。つまり、これを超える高値となると、重症の敗血症と判断されるということです。

敗血症などとプロカルシトニンの関係は以下のようです。

ICU実践ハンドブックP430より引用改変

PCT値(ng/ml) 考えられる病態・病名
0.25-0.5 健常者、軽症の局所感染症・ウイルス感染症、非細菌性SIRS
0.5-2.0 敗血症
2.0-10.0 重度の敗血症
10.0- 敗血症性ショック

細菌感染の時にプロカルシトンが上昇するまでの時間は?

そんな完全ではないプロカルシトニンですが、細菌感染をしてからプロカルシトニンが上昇するのにかかる時間はどれくらいでしょうか?

 

細菌感染症でプロカルシトニンが上昇するのは2-4時間経過してからと言われており、これはCRPと比較して早いとされています。

 

ちなみにCRPは上昇するまでに6時間かかると言われています。

反応時間 半減期
CRP 6時間 4-6時間
PCT 2-4時間 20-24時間

このようにプロカルシトニンはCRPと比較して立ち上がりが早く半減期が長いのです。

またこの半減期は、腎不全の方や透析中の方でも変わらないと言われています。

 

よくCRPは遅れて上ってくると言われますが、それよりはPCTは早いということです。

 

また、ICUの重症度の指標として用いられるスコアの一つであるAPACHEスコアとプロカルシトニン(PCT)は相関していると報告されており、値が高いほど重症であり、死亡率が高くなると報告されています。(Crit Care Med, 30 (4) : 757-762, 2002)

さらに、肺炎の重症度評価であるPSIやCURB-65ともプロカルシトニン(PCT)は相関関係があるとされています(Chest, 128 (4) : 2223-2229, 200)

プロカルシトニンの問題点は?

プロカルシトニンの問題点は以下の通りです。

  • 検査の結果が出るのに時間がかかることがある。
  • 高額な検査である。
  • 偽陽性・偽陰性がある。

プロカルシトニン検査の結果が出るのに時間がかかることがある。

細菌感染があることがわかればすぐに抗生剤の投与が必要となります。

それに大きな役割を果たすプロカルシトニンの検査の結果が出るのに時間がかかる場合があります。

多くの病院では院内で検査ができずに外注に出さないといけないのが現状であり、エクルーシス試薬ブラームスPCT、ミュータスワコーブラームスPCTという検査があります。

その場合ですと、検査結果が出るまでに数日かかることもあります。

そのため迅速診断キットブラームスPCT-Q」が和光純薬工業より発売されています。

これではイムノクロマト法を用いてPCT値が

  • 0.5未満
  • 0.5-2.0
  • 2-10
  • 10-

のいずれであるかを45分で迅速判定できます。

ただしこれでは、先ほど述べた0.25ng/mlのカットオフ値とした時には、そこは拾えないというデメリットもあります。

ちなみに、外注検査になることが多い、エクルーシス試薬ブラームスPCT、ミュータスワコーブラームスPCTでは0.02ng/ml以上の測定をすることができますが迅速キットではありません。

プロカルシトニンの検査の値段は?保険点数は?保険病名は?

プロカルシトニンの検査で保険が通るのは

  • 敗血症

を疑ったときのみです。

保険点数は1回あたり320点であり、値段にすると3200円かかります。

ちなみにCRPは1回16点ですので、いかに高額かがわかると思います。

 

プロカルシトニンが偽陽性で上昇するのはどんな時?どんな病名?

プロカルシトニン(PCT)が実際は陽性でないのに、陽性と出てしまういわゆる偽陽性となるのは、以下の場合が報告されています。

  • 生後間もない新生児(48時間以内)
  • 急性呼吸促迫症候群
  • 急性熱帯熱マラリア
  • 全身性真菌感染症(アスペルギルス、カンジダなど)
  • 重症外傷
  • 外科的侵襲
  • 成人型スティル病
  • γグロブリン投与
  • 化学性肺炎
  • 重度熱傷・熱中症
  • ホルモン産生腫瘍(甲状腺髄様癌、肺小細胞癌、カルチノイドなど)
  • サイトカイン・ストーム状態(TNF-α投与、家族性地中海熱)

これらの場合にプロカルシトニン(PCT)が、細菌感染ではないのに偽陽性として高値となります。

プロカルシトニンが偽陰性となるのはどんな時?

逆に細菌感染があるのに、上昇しない偽陰性の場合は以下の通りです。

  • 超急性期の感染
  • 軽症の感染症
  • 局所的な感染症
  • 亜急性心内膜炎

最後に

細菌感染に対してCRP/WBCよりも有用であるプロカルシトニン(PCT)についてまとめました。

有用ではあるものの、限度があり、またいくつか問題点もあることがわかりました。

一つの検査に頼るのではなく、あくまで補助的に、そして総合的に細菌感染の有無を考える必要があるということです。

 

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