人間ドックや健康診断で受ける腹部エコー検査(腹部超音波検査)で

「腎臓に嚢胞(のうほう)があります。」
「右腎に腎嚢胞(じんのうほう)あり。」
「両側の腎にのう胞あり。」

などと指摘されることがあります。

この腎嚢胞は、文字通り腎臓にできる嚢胞のことで、肝臓に出来る肝嚢胞と並び頻度の高い正常変異です。

通常、無症状で、精密検査の必要も、フォローの必要ありません。

しかし中には、

  • 症状を起こす腎嚢胞
  • 精密検査が必要な腎嚢胞
  • フォローが必要な腎嚢胞

というものも存在します。

そこで今回は、腎嚢胞について、図(イラスト)や実際のエコー、CT、MRIの画像を交えてまとめてみました。

腎嚢胞とは?

先ほども述べたように腎嚢胞とは腎臓にできた嚢胞のことです。

嚢胞とは液体がたまった袋であり、通常内部の液体は漿液性です。

見つかるほとんどの腎嚢胞は単純性腎嚢胞(simple cyst)と呼ばれます。

単純性腎嚢胞は、良性の嚢胞で、腎臓の皮質に生じ、境界は明瞭で壁が薄いのが特徴です。

腎嚢胞が見られる確率は?

この単純性腎嚢胞は、小児に見られることはまれで、30歳以上になると年齢とともに頻度を増し、50歳以上では実に2人に1人に見られます1)

単純性腎嚢胞のCT,MRI,エコー画像を見てみましょう。

症例 50歳代女性 スクリーニング

腹部超音波検査(腹部エコー検査)です。

黒く抜けているのが腎嚢胞です。

単純性腎嚢胞を疑う所見です。

症例 50歳代男性 スクリーニング

造影CTの横断像です。

左腎臓に15mm大の境界明瞭な低吸収域(LDA)を認めます。

単純性腎嚢胞を疑う所見です。

同じ症例のMRI画像です。

T2強調像の横断像です。左腎に境界明瞭な高信号を認めています。

単純性腎嚢胞を疑う所見です。

 

ただし、腎嚢胞=単純性腎嚢胞というわけではなく、以下のような、特殊な腎嚢胞もあります。

特殊な腎嚢胞は?

中には、通常見られる一般的な腎嚢胞とは異なる場合があります。

具体的には、内部に出血や蛋白濃度の高い液体を伴っていたり、感染を伴っていたりする場合です。

複雑性腎嚢胞(非定型腎嚢胞)

内部に出血や蛋白濃度の高い液体を伴っている場合、複雑性嚢胞/非定型腎嚢胞(complicated cyst)と呼ぶことがあります。

症例 70歳代男性

腹部単純CTの横断像です。

右腎から突出する高吸収(白い)の嚢胞を認めています。

典型的な複雑性嚢胞(complicated cyst)を疑う所見です。

感染性腎嚢胞

一方で感染を伴っている場合を、感染性嚢胞(infected cyst)と呼ぶことがあります。

感染性嚢胞は治癒後、複雑性嚢胞となることもあります。

症例 80歳代男性 発熱、腹部膨満

腹部単純CTの横断像です。

少しわかりにくいですが、右腎に壁の厚い嚢胞を認めています。

臨床的に感染性嚢胞が疑われドレナージ(穿刺吸引)が行われました。

チューブからは緑白色の液体が排出され、感染性腎嚢胞(膿瘍形成)と診断されました。

 

さらに、嚢胞が多数ある場合もあります。

多発腎嚢胞

多発腎嚢胞は、単純性腎嚢胞が多発している場合と、多嚢胞腎(polycystic kidney)の場合があります。

多嚢胞腎は、

  • 先天性のもの(成人で見られる常染色体優性遺伝)
  • 後天性のもの(透析に伴うもの)

に分けることができます。

また、多発腎嚢胞を伴いやすい疾患が知られており、

  • 結節性硬化症
  • von Hippel-Lindau病

などがこれに相当します。

多発腎嚢胞の実際の画像を見てみましょう。

症例 50歳代男性 透析中

腹部単純CTの横断像です。

両側腎は右優位に萎縮を認め、多数の嚢胞を認めています。

透析に伴う多発腎嚢胞(後天性)を疑う所見です。

 

腎嚢胞の原因は?

最も頻度が高い良性嚢胞である単純性腎嚢胞が出来る原因は、尿細管の閉塞による二次性の病変と考えられています1)

また、遺伝が原因になる腎嚢胞に、成人で見られる常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD:autosomal dominant polycystic kidney disease)があります。

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)とは?

  • 約90%がPKD1(第16染色体短腕)
  • 約10%がPKD2(第4染色体長腕)

の遺伝子変異が原因となる疾患で、腎臓や肝臓、ときに膵臓に多数の嚢胞を生じます。

10-40%に脳動脈瘤を合併し、さらにその9%程度が動脈瘤破裂によるくも膜下出血で死亡すると報告されています。

症状としては、

  • 血尿
  • 側腹部痛

といったもので発見され、大腸憩室、大動脈瘤、僧帽弁逸脱症などを合併することがあります2)

症例 40歳代男性

腹部造影CTの冠状断像です。

両側腎臓は腫大し、多数の嚢胞を認めています。

また肝臓にも多数の嚢胞あり。

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)を疑う所見です。

 

腎嚢胞の症状は?痛みを伴うことはある?

腎嚢胞の多くは通常無症状です。

ただし、サイズが大きく、

  • 膨満感
  • 腰痛
  • 水腎症
  • 高血圧

などの圧排による症状が起こることがあります。

また、感染を伴っている場合(膿瘍を形成している場合)は、発熱を伴うことがあります。

腎嚢胞から癌が生じることはある?

腎嚢胞から癌が生じることはあります。

この場合、嚢胞の壁が厚かったり、充実性部位を含んでいたり、隔壁を多数有していたりします。

ですので、通常の単純性腎嚢胞とは、形態が異なります。

そんな悪性の可能性がある腎嚢胞と良性の単純性腎嚢胞とを分類する必要がありますね。

腎嚢胞の分類は?

そこで、腎嚢胞の分類にはBosniak分類(読み方は「ボスニアック」分類)が知られています。

このBosniak分類は腎嚢胞をカテゴリーⅠ〜カテゴリーⅣと分類し、カテゴリーの数字が上がるほど悪性の可能性が高くなりました。

  • 隔壁の有無
  • 石灰化の有無
  • 腎嚢胞の大きさ
  • 造影効果の有無
  • 充実部位の有無

などで、カテゴリー分けするのが、Bosniak分類です。

症例 60歳代男性

腎ダイナミックCTの横断像です。

右腎に壁の厚い嚢胞を認めており、その内部に充実部位を認めています。

ダイナミックで早期濃染され、平衡相ではwashout(造影効果の抜け)を認めております。

Bosiniak分類(ボスニアック分類)のカテゴリーⅣ相当であり、嚢胞内に発生した腎癌を疑う所見です。

腎嚢胞の治療方法は?

通常腎嚢胞が治療方針になることはありませんが、嚢胞のサイズが大きく、圧迫症状がある場合や、感染を伴っている場合、悪性の可能性がある場合などは治療の対象になることがあります。

治療としては、

  • 手術(切除、開窓術)
  • 穿刺排液
  • 硬化療法

などがあります。

単純性腎嚢胞はサイズが大きくなったり、小さくなったり、ときに消えることもあります。

症例 80歳代男性 上記の感染性腎嚢胞と同一症例

右感染性腎嚢胞に対して、穿刺排液(ドレナージ)が施行されました。

液体は緑白色であり、膿瘍を形成していました。

最後に

腎嚢胞についてまとめました。

  • 腎嚢胞はしばしば見られ、そのほとんどは良性である。
  • 特殊な腎嚢胞がいくつかある。
  • 腎嚢胞から癌が発生することもある。
  • そのため腎嚢胞はBosniak分類という分類でカテゴリー分けされる。
  • 腎嚢胞は通常無症状であるが、症状が起こることもある。
  • 腎嚢胞は通常無治療でよいが、治療が必要なことがある。

という点がポイントです。

良性で最も頻度が高い単純性腎嚢胞は、フォローの必要もないとされます。

ですので、腎嚢胞があると言われても通常は心配の必要はありません。

ただし、中には注意が必要な嚢胞もあり、その場合はフォローが必要となります。

参考文献:
知っておきたい泌尿器のCT、MRI 1)P95 2)P111

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