上腸間膜動脈閉塞症は文字どおり、上腸間膜動脈が閉塞(へいそく)する病態です。
つまり、この動脈が詰まってしまう、ということです。

上腸間膜動脈は「じょうちょうかんまくどうみゃく」と読み、英語では、SMA(読み方位は「エスエムエー」superior mesenteric arteryの略)と言います。

この上腸間膜動脈は大動脈から直接分岐して、小腸や大腸(中でも上行結腸、横行結腸)を栄養する(に分布する)重要な血管です。

ですので、この動脈が何らかの理由で詰まってしまうと、栄養先の小腸や大腸に血液を送ることができなくなり、広範な腸管壊死を引き起こし、命に関わります。

今回はこの上腸間膜動脈閉塞症について

  • 上腸間膜動脈閉塞症とは?原因は?
  • 診断方法は?
  • 治療は?
  • 生存率は?

といった点について、イラストと実際のCT画像を交えてわかりやすく解説しました。

上腸間膜動脈閉塞症とは?原因は?

上腸間膜動脈閉塞症とは、以下の2種類に分けられます。

  • 上腸間膜動脈「血栓症」
  • 上腸間膜動脈「塞栓症」

このうち頻度としては、後者の塞栓症が多いとされます。(RadioGraphics 20:29-42,2000)

上腸間膜動脈血栓症

主に動脈硬化が原因となり、上腸間膜動脈(SMA)の分岐部を中心に徐々に細くなって閉塞して、上腸間膜動脈閉塞症を起こします。

動脈硬化のほか、動脈瘤や大動脈解離も原因となります。

上腸間膜動脈(SMA)が詰まる部位は、起始部に多いとされます。

上腸間膜動脈塞栓症

心房細動(Af)などの不整脈が原因となり、心臓の左心耳などに血栓ができます。
それが心臓から飛び、大動脈を経て上腸間膜動脈が詰まることで、上腸間膜動脈閉塞症を起こします。

上に述べたようにこちらのほうが頻度が高く、そして、腸管壊死を起こす割合も多いとされます。

心房細動のほか、弁膜症や心筋梗塞の壁在血栓、時に大動脈プラークの破綻が上腸間膜動脈を塞栓する塞栓子の原因となります。

上腸間膜動脈(SMA)が詰まる部位は、起始部から3~8cm末梢に多いとされます。

まとめて表にすると、上腸間膜動脈血栓症と塞栓症には、以下のような違いがあります。

上腸間膜動脈閉塞症の症状は?

急激な腹痛で発症することが多いですが、この病気に特徴的な症状はなく、非特異的で嘔気・嘔吐、腹部膨満、下血なども見られます。

ただし、不整脈の既往歴を持つ人の臍周囲から腹部全体に広がる激痛を認めた場合、鎮痛薬が無効な場合は、この病気の可能性があり、除外するために、造影剤を用いたダイナミックCTを撮影する必要があります。

つまり、まずはこの病気を疑うことが非常に重要です。

上腸間膜動脈閉塞症の生存率は?

死亡率は60-80%と非常に高く(Semin Intervent Radiol 26:345-351,2009)、生存率が低いことがわかります。

特に腸管壊死に陥る前に診断できない場合は、死亡率は90%とも言われています。

上腸間膜動脈閉塞のCT画像所見は?

上腸間膜動脈閉塞のCT画像では、以下のような所見が見られます。

  • SMAが閉塞したことを示唆する所見
  • SMAの支配域の腸管に起こる所見

この2つについて分けて見ていきましょう。

SMAが閉塞したことを示唆する所見

SMA内に血栓が見られる場合は単純CTで高吸収となります。

また造影剤を用いた造影CTでは血管が詰まっているため、血管がきちんと造影されません。

ですので上腸間膜動脈の造影欠損像として描出されます。

本来SMV径>SMA径なのですが、これが逆転してしまうことがあります。

これを、smaller SMV signといいます。

smaller SMV signが起こる機序は?

上腸間膜動脈(SMA)が詰まると、腸管に行く血流が途絶えます。
→すると、腸管から帰ってくる血流も当然減ります。
→すると、静脈(上腸間膜静脈(SMV))が本来よりも細くなります。
一方で動脈は硬い壁で構成されていますので、血管の太さは変わりません。

結果、本来SMV径>SMA径なのですが、これが逆転してしまうことがあります。

 

ちなみにSMVとSMAの正常の大きさの関係はこちら。

SMVの方がSMAより本来は大きいことがわかります。

SMAの支配域の腸管に起こる所見

もう一度復習ですが、上腸間膜動脈(SMA)は、小腸(空腸、回腸)及び大腸の一部を栄養している血管です。

この血管が詰まるとこれらの腸管に栄養(血液)を運べないことになってしまいますので、これらの腸管は血液(酸素)が足りずに虚血となり、やがては壊死に陥ってしまいます。

この様子をいち早くCTで捉えることが重要です。

腸管虚血に陥ると、腸管の壁の造影効果が弱くなります。
また動脈がつまり腸管に血流がいかなくなるため、腸管は菲薄化することが多いと言われます。

イレウスなどと比べて、腸管の所見は見た目の派手さに乏しく、「緊張がない腸管」でスルーされてしまいがちです。
しかし、この「緊張がない腸管」こそが所見であり、それを見逃さないことが重要です。

腸管壊死に陥ると、単純CTなのに、造影CTのように壁が高吸収(出血性梗塞を示唆)に見えたり、腸管の壁内にガスや門脈ガスを認めるようになります。

症例 70歳代 男性

造影CTの横断像で、SMAに造影欠損があること、さらに、本来SMVの方が大きいのが、SMAの径とSMVの径に差がないことがわかります。

造影CTの冠状断像では、SMAの起始部から少し離れた末梢で造影欠損を認めています。

一方、腸管は、小腸は広範に造影効果の減弱があります。
下腸間膜静脈の支配域である下行結腸の造影効果と比較すればその様子がわかります。

また、小腸の壁は薄く、腸管浮腫は認めていません。

上腸間膜動脈(SMA)塞栓症と診断し、緊急手術となりました。

手術にて、腸管の広範な壊死を認めており、トライツ靭帯から30cm〜横行結腸の右1/3まで切除しました。

症例 80歳代 男性

上腸間膜動脈(SMA)に造影欠損を認めており、上腸間膜静脈(SMV)の径はSMAよりも小さく、smaller SMV signを認めています。

SMA閉塞によるSMVの血流低下を示唆する所見です。

先ほどの症例と同様に、腸管は、小腸は広範に造影効果の減弱があります。
下腸間膜静脈の支配域である下行結腸の造影効果や十二指腸の造影効果と比較すればその様子がわかります。

また、小腸の壁は薄く、腸管浮腫は認めていません。

上腸間膜動脈(SMA)塞栓症と診断し、緊急手術となりました。

手術にてトライツ靭帯から70cm~横行結腸三分の一まで切除となりました。

上腸間膜動脈閉塞症の治療は?

早期診断して、早期手術が重要です。

腹膜刺激症状が出現した時点で、緊急手術が行われるのが一般です。

壊死に陥っていない場合で、発症12時間以内は、IVRによる加療が試みられることがあります。

手術になった場合は、全身状態が不良であることが多いので、腸管の吻合は極力回避して人工肛門の造設を考慮します。

最後に

腸管虚血の原因は上のように主に4つに分けられます。

このうち、上腸間膜動脈閉塞症は、「血管が詰まる・細くなる」結果起こる腸管虚血に分類されます。

イレウスのような腸管のCT画像所見に派手さがなく、血管の一部の造影欠損を確認することが診断につながります。

逆に言えば、造影剤を用いた造影CT検査を行わなければ、診断にたどり着かないとも言える病気であり、いかにこの病気を疑うかが重要です。

特に、高齢者で、不整脈の既往歴を持つ人の、臍周囲から腹部全体に広がる激痛を認めた場合、鎮痛薬が無効な場合は注意が必要と言えます。

参考文献)
経過でみる救急・ICU画像診断マニュアル P195

Emergency Radiology―救急の画像診断とIVR P178-179

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